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【健康管理担当者必見】二次受診勧奨が進まないとき
〜担当者が消耗しない「督促の型」と「例外処理」の設計方法〜

健診結果を受け取り、要精密検査・要治療と判定された従業員に受診を促す。そんな、「二次受診勧奨」は、法律で定められた事後措置の一つであり、担当者として「やらなければならない」と分かっていますよね。

でも現場では、
「何度案内しても返事がない」
「どこまで追いかければいいか分からない」
「記録はしているけど、本当にこれで足りているのか不安」

企業の健康管理業務を伴走していると、こんな声をよく聞きます。

担当者さんが消耗しながら個別対応を続けている。その疲弊は、名簿管理の問題と同じ構造を持っています。「仕組み」がないところに「根性」で対応しているから、終わりが見えない。

ただ、担当者さんが消耗しているのは、努力が足りないからではありません。そもそも「なぜ進まないのか」という構造的な理由があります。

前回は、名簿管理の「揺れ」の根っこに人事システムと健康管理システムの分断があるという話をしましたが、今回はその先。名簿が整ったとして、次に立ちはだかる壁「二次受診勧奨が進まない」という問題を取り上げます。

1. データが示す「進まない」の実態

厚生労働省の「定期健康診断結果報告(令和5年)」によると、2023年の有所見率は58.9%。つまり労働者の約6割が、何らかの異常所見を持っています。1997年には3割台だったことを考えると、この25年余りでほぼ倍増したことになります。高齢化が主な要因とされていますが、二次受診勧奨の対象者が膨大な数に上ることを示しています。

  • 有所見者:定期健康診断において「異常なし」以外(要再検査・要治療・治療中毒)と判定された者
  • 令和4年(2022年)の値は、同年10月の労働安全衛生規則改正前後の有所見率を加重平均した推計値
    (令和4年有所見率)=(1~9月の有所見率)×0.75+(10~12月の有所見率)×0.25
  • 対象:常時50人以上の労働者を使用する事業場における定期健康診断の実施結果
    出展:厚生労働省「定期健康診断実施結果(年次別)」第7表をもとに作成

一方、二次検査の受診率はというと、要精密検査と判定された労働者のうち、約3~4割が精密検査を未受診のままというデータがあります。また別の調査では、「要再検査・要治療」と判定された人のうち43.8%が医療機関を受診していないという実態も報告されています(株式会社ドクターズ調査)。

有所見者は6割、でも受診しない人は4割前後。

この数字の間に、担当者さんの苦労が詰まっています。

2. なぜ二次受診は進まないのか ~3つの「壁」~

二次受診勧奨が進まない理由は、「従業員が動かないから」だけではありません。従業員側の壁、企業・担当者側の壁、そして制度・構造の壁という三層の問題が重なっています。

① 従業員側の壁

最も多い理由が「自覚症状がない」ことです。高血圧・脂質異常症・糖尿病などの生活習慣病は、初期段階ではほぼ無症状です。「体調は悪くないのになぜ病院に」という心理的抵抗が、受診の先延ばしを生みます。

加えて、時間・費用・アクセスの壁もあります。一次健診は就業時間内・会社負担で受けられるのに対し、二次検査は有給休暇を使って自費で行く必要があることも多い。専門外来の予約が数か月先まで埋まっている、どこで受ければいいか分からない……という現実的な障壁もあります。

そして「自分だけは大丈夫」という楽観バイアス。特に働き盛りの40~50代男性に多く見られる傾向で、数値が多少高くても「まだ大丈夫」と先送りしてしまいます。

② 担当者・企業側の壁

担当者さんを一番消耗させているのが、「どこまでやればいいか分からない」という状態です。労働安全衛生法が事業者に義務付けているのは「健診の実施」と「医師の意見聴取・就業上の措置」であり、二次受診の受診完了を確認・追跡する明示的な義務は規定されていません。「勧奨はしたが、受診するかどうかは本人次第」という姿勢になりがちな背景がここにあります。

また、追跡管理の仕組みが整備されていない場合、督促が一斉メールの送付で終わってしまいがちです。個別フォローまでは手が回らないことがほとんどです。健診結果の管理が紙ベースの組織では特にこの問題が顕著です。担当者さんが人事・総務と兼務していることも多く、二次受診勧奨に割けるリソース自体が足りていないという現実もあります。

③ 制度・構造の壁

一次健診は「会社が段取りして実施する」ものですが、二次検査は「従業員が自分で医療機関を予約して受診する」必要があります。この「会社主導から個人の自主性への移行点」が、受診率低下の最大の構造的要因です。

さらに見落とされがちな問題が、制度の認知度の低さです。労災保険には「二次健康診断等給付制度」という仕組みがあり、血圧・血中脂質・血糖・腹囲のすべてに異常所見があった労働者は、費用負担なく二次健診と特定保健指導を受けられます。2001年に創設されたこの制度ですが、その存在自体が従業員にも担当者さんにも十分に周知されていない。費用の壁を下げる制度があるのに、知らないために活用されていないのです。

3.担当者が消耗する本当の理由

以上の「壁」を踏まえると、担当者さんが消耗する構造が見えてきます。

対象者は多い(有所見率58.9%)。でも動かない人がいる(未受診約4割)。法的な義務の範囲は曖昧。個別フォローの仕組みはない。ゴールが見えない……

この状態で「とにかく全員受診させなければ」と動き続けると、担当者さんの疲労は増える一方です。問題は個々の対応の質ではなく、「仕組みなく走り続けること」そのものにあります。

では、どうすればいいか。答えは「仕組みをつくること」です。

担当者さんが毎回ゼロから判断しなくて済むように、督促の型と例外処理の設計を先に決めてしまうといいでしょう。

4.督促の「型」をつくる ~判断しなくていい設計~

督促の消耗を減らす最初の一手は、型を決めることです。何を、いつ、どんな手段で、何回行うかを事前に決めておく。その都度の判断をなくすことで、担当者さんの精神的負担が大きく変わります。誰かに手伝ってもらう場合にも、明確な基準があることで、スムーズに進める事ができます。

3段階で設計する

実務で使いやすいのは「一次督促→二次督促→三次督促(最終)」の3段階です。それぞれにタイミング・手段・文面の型を用意しておきます。

  • 一次督促:健診結果送付から2〜3週間後。メール・通知など。「ご確認ください」レベルの柔らかいトーン
  • 二次督促:一次から2〜3週間後。メール+所属長経由など。受診期限を明示した文章を入れておく
  • 三次督促(最終):二次から2〜3週間後。「この日までに受診報告がない場合は未受診として記録します」と明記する

段階が上がるにつれてトーンを強くするのではなく、「記録・報告の義務」を明示していくイメージです。責める言い方ではなく、「組織として確認義務を果たしている」という文脈で伝えることが、担当者さんにとっても受け取る側にとっても健全です。

文面・手段・タイミングを固定する

型の肝は「固定」にあります。文面をテンプレート化し、送るタイミングをカレンダーに登録し、手段を段階ごとに決める。これで担当者さんは「次に何をすべきか」を考えなくてよくなります。

▼文面テンプレートに盛り込む要素

  • 対象の健診名と実施日
  • 判定内容(精密検査・再検査など)
  • 受診期限の目安
  • 二次健康診断等給付制度の案内(費用負担なしで受診できることを明記)
  • 受診報告の方法と提出先

特に「二次健康診断等給付制度」の案内をテンプレートに組み込んでおくことは重要です。費用の壁が受診を妨げているケースで、この一文が背中を押すことがあります。

※書類確認などの業務が増えるため、二次健康診断等給付制度の扱いについては業務量やタイミングに会う作業フローを作成することをお勧めします。一時健診の結果を受け取った日から3か月以内という期限がついた給付制度でもあるので、声をかける時期も要注意です。

督促の記録を仕組みに組み込む

督促の型と並行して、記録の型も決めます。「いつ・何を・誰に・どんな反応があったか」を残しておくことは、担当者さん自身を守ることになります。記録があることで、組織として義務を果たしたことをデータとして示せます。

健康管理システムを使っている場合でしたら、個人の管理記録のページに追記していけると、分かりやすいですね。

5.例外処理の設計 ~よくあるケースを定型パターンにする~

督促の型を決めても、必ず「型に当てはまらないケース」が出てきます。よくある例外パターンを、あらかじめ定義しておくことで、担当者さんの都度判断を減らせます。

長期出張・現場常駐

通常の督促手段が届きにくい状況です。所属長または現場責任者を経由するルートを標準対応として固定します。督促の期限は本人が戻る時期に合わせてスライドさせるルールにしておくと、担当者さんの判断が不要になります。

育児休業・産前産後休暇中

休業中の督促は復職後に改めて実施することを原則とします。ただし健診の有効期間(一般的に1年以内)との兼ね合いを確認しておく必要があります。復職後の健診実施タイミングと合わせて整理しておくと漏れが防げます。

本人が受診を拒否している

最も対応が難しいケースです。担当者さんにできることは「適切な情報を提供し、受診の機会を整え、その記録を残すこと」です。最終的な受診は本人の意思によるものであり、担当者さんが責任を一人で抱える必要はありません。

拒否が続く場合は、産業医や上長を交えた対応に切り替える「エスカレーションライン」を設けておくと、担当者さんが都度相談しにいく負担が軽減されます。

6.「ここまでやったら終わり」を決める

督促の型と例外処理の箱が揃ったら、最後に「打ち切りライン」を決めます。これは諦めることではなく、「組織として合理的な範囲で義務を果たした」という区切りを設けることです。

三次督促まで行い、最終期限を過ぎても報告がない場合は「督促完了・未受診として記録」とするのが、実務上の一つの区切りです。その後は定期的なフォロー(例:半年後に再確認)に切り替えます。

打ち切りラインまでの一連の督促記録は、担当者さん自身の免責の根拠になります。最低限、以下を記録に残します。

  • 督促を行った日時と手段
  • 本人または所属長からの反応(または無反応の事実)
  • 次のアクションの判断根拠
  • 打ち切りを判断した日と理由

「何もしていなかったわけではない、これだけの対応をした」という事実を残しておくことが、組織として健全な証明になります。

また、督促が進まないケースの中には本人の健康上の深刻なリスクが背景にある場合もあります。どの段階で産業医や上長にエスカレーションするかをあらかじめ決めておくことも、担当者さんを守る設計の一つです。

7.まとめ

有所見率58.9%という現実の中で、二次受診勧奨は「やれば終わり」の仕事ではなく、対象者の多さと法的義務の曖昧さの間で担当者さんが一人で抱え込みやすい仕事です。

でも、督促の型・例外処理の箱・打ち切りライン——この3つが揃うと、仕事に「終わり」が見えるようになります。担当者さんが毎回ゼロから判断しなくてよくなる。それだけで、精神的な余力が大きく変わります。

さらに言えば、督促の段階管理・未受診者の抽出・記録の一元化をシステムが担ってくれる環境があれば、担当者さんは設計した型を「使うだけ」になれます。手作業と判断の繰り返しに疲弊するのではなく、専門職として本来の仕事(面談、健康相談、復職支援)に集中できる。

健康管理システムが「担当者を支える設計」になっているかどうかは、導入後の運用が変わるかどうかに直結します。督促の管理、例外フラグの設定、記録の蓄積がシステム上で完結できること。それが、担当者さんの余力を生み出す本質的な条件ではないでしょうか。

株式会社TAYORI 代表取締役 奥野実羽心(おくのみわこ)

ストレスチェック・健康経営エキスパートアドバイザー

看護師・保健師として10年経験を積み、治療と予防の両方に関わる。「働いている方が、心も体も健康になる」と思える会社を増やしたいと考え、現在は企業の健康経営やストレスチェックの実施・アフターフォローを通じて、働く人の健康と人材定着を支援している。
https://tayori-health.com/